短期譲渡所得と長期譲渡所得は何が違う?税率・課税の特例・所有期間の数え方などを税理士が解説!

不動産を売却した場合の税金は、給与や事業、不動産などの所得とは区別され「譲渡所得」として、分離課税の方法により確定申告を行います。

この不動産の売却による譲渡所得は、その不動産を所有していた期間より「短期譲渡所得」と「長期譲渡所得」に分けられます。

「長期譲渡所得」とは、その年1月1日において所有期間が5年を超える譲渡を言います。

その年1月1において、というのがポイントで令和6年中の譲渡であれば、平成30年12月31日以前に購入した不動産が長期譲渡所得の対象となります。
極端な例として、平成30年12月31日に購入した不動産は、所有期間が5年と1日となるため、長期譲渡所得となり、平成31年1月1日に購入した不動産は、所有期間がちょうど5年となり、「5年を超えていない」ため短期譲渡所得となります。

このように、たった1日の違いで短期譲渡所得と長期譲渡所得に区分されます。

それでは、短期譲渡所得と長期譲渡所得には、どのような違いがあるのでしょうか。

そして、その「短期」か「長期」かの所有期間の判定は、「不動産の引渡し(決済)をした日付」または「売買契約書の日付」どちらを基準として考えれば良いのでしょうか。

不動産の売却については、仲介手数料、譲渡所得税、住民税、健康保険料が増額になるなどの様々なコストが発生します。

この記事を読んで、出来る限り手取り額を多くしてもらいたいと思います。

1.短期譲渡所得と長期譲渡所得の違い

そもそも不動産の譲渡所得は、その不動産の「値上り益」に課税される税金です。

過去に購入した不動産が、購入時より高い価額で売却した場合(建物については、一定の減価を考慮します。)に、その売却益に課税されます。
一方で、購入時より低い価額で売却した場合には、売却損となるため確定申告は必要ありません。

その売却益が5年以内の短期に実現した場合は、「短期譲渡所得」となり、5年を超えて実現した場合には、「長期譲渡所得」となります。

この2つには、どのような違いがあるのでしょうか?

1-1.税率

短期譲渡所得と長期譲渡所得の1番の違いは、税率です。

不動産の売却益が5年以内の短期に実現した場合には、その税率は高くなります。

それぞれ次の税率になります。

所得税・住民税率
所得税住民税
短期譲渡所得30.63%9%39.63%
長期譲渡所得15.315%5%20.315%

これらの税率を乗ずる売却益は、次の算式によります。

売却金額-(取得費+譲渡費用)=売却益

売却益の計算をもっと詳しく知りたい方は、こちらをご覧ください。
不動産売却の税金の基本 | 東京の不動産税理士|税理士法人根本税理士事務所 (etokyo-fudosan.com)

このように短期譲渡所得の税率39.63%と長期譲渡所得の税率20.315%とでは、19.315%の差が生じます。
仮に5,000万円の売却益の場合は、税額にして実に9,657,500円の差が生じます。

昨今、都市部の不動産の価額は年々上昇していますので、なるべく長期譲渡となるように売却できると、手取り額は多くなります。

1-2.長期譲渡所得の場合の優遇税制

長期譲渡所得に該当すると、短期譲渡所得に比べて税率が低くなることは、先ほど解説しましたが、10年超保有したマイホームを売却する場合には、さらなる優遇制度があるので2つご紹介します。
ちなみにこれらの2つの特例は、併用して適用することはできません。

(1)居住用財産を譲渡した場合の長期譲渡所得の課税の特例

「居住用財産を譲渡した場合の長期譲渡所得の課税の特例」とは、10年超所有したマイホームを売却した場合には、6,000万円までの売却益に対して、さらに税率が低くなる制度です。

マイホームを売却した場合は、新たなマイホームが必要になることが想定されます。
その購入資金の捻出を助ける目的で、一定の要件を満たした場合には、さらなる税率の優遇制度が設けられています。
主な適用要件は次のとおりです。

主な適用要件
  • その年1月1日において、所有期間が10年を超えるマイホームの譲渡であること。
  • 配偶者や子供などの一定の親族や同族会社への譲渡でないこと。
  • 売却した年の前年または前々年にこの特例を受けていないこと。
  • このマイホームの譲渡について、他の課税の特例の適用を受けていないこと。
    (「居住用の3,000万円控除」または「収用交換等の特別控除」とは、併用して適用することができます。)

これらの要件を満たした場合の税率は、売却益のうち、6,000万円以下の部分に対しては14.21%となり、6,000万円超の部分に対しては20.315%(通常の長期譲渡所得の税率)となります。

売却益所得税住民税
6,000万円以下10.21%4%14.21%
6,000万円超15.315%5%20.315%

(2)特定の居住用財産の買換えの場合の課税の特例

「特定の居住用財産の買換えの場合の課税の特例」とは、マイホームを売却し、一定の要件を満たす新たなマイホームを取得した場合には、旧マイホームの売却益に対する課税を繰り延べる制度です。
課税を繰り延べるとは、旧マイホームの売却益に課税しないで、将来新たなマイホームを売却した時にまとめて課税するという意味です。

マイホームを売却した場合の優遇税制は、「3,000万円の特別控除(こちらは所有期間の要件なし)」が有名ですが、売却益が多額になる場合には3,000万円控除をしても税負担が重くなる場合があります。
その場合には、本特例を利用すると有利な場合があります。

本特例を利用してマイホームを買い替えた場合には、税務上は次のような取り扱いになります。

①旧マイホームの売却収入以上の金額で、新たなマイホームを購入した場合

旧マイホームの売却収入新たなマイホームの購入金額

譲渡益に対して課税は行われません。
マイホームの買換えにより、手元に何もお金が残らなかったイメージです。ただし、新たなマイホームの取得費は、一定の計算により売却した旧マイホームの取得費を引継ぎます。

②旧マイホームの売却収入に満たない金額で、新たなマイホームを購入した場合

旧マイホームの売却収入新たなマイホームの購入金額

売却収入から新たなマイホームの購入資金を控除し、余った部分の譲渡益に対してのみ課税が行われます。
マイホームの買換えにより、差額分だけ手元にお金が残ったイメージです。
ただし、新たなマイホームの取得費は、一定の計算により売却した旧マイホームの取得費を引継ぎます。

主な適用要件
  • その年1月1日において、所有期間が10年を超えるマイホームの譲渡であること。
  • 売却した人が10年以上居住していた不動産であること。
  • 売却金額が1億円以下であること。
  • マイホームを売った年の前年から翌年までの3年の間に新たなマイホームを取得し、一定の期間に居住すること。
  • 売った年、その前年および前々年において、他の課税の特例の適用を受けていないこと。
  • 新たなマイホームは、床面積が50m2以上、土地の面積が500m2以下であること。

2.短期譲渡所得と長期譲渡所得の所有期間の数え方

これまで解説してきたように、短期譲渡に該当するか長期譲渡に該当するかにより、その取り扱いが大きく異なるため、不動産の所有期間の計算(判定)がとても大切です。

この所有期間を数える際に起点(終点)となる「譲渡日」や「取得日」は、いつの時点をいうのでしょうか?

不動産取引では、一般的に「売買契約締結の日」と「引渡しの日(決済の日)」がありますが、どちらを基準に考えるのでしょうか?

また、相続で取得した不動産の取得日は、どの時点と考えるのでしょうか?

2-1.譲渡日の判定(所得税法基本通達36-12)

土地や建物の譲渡の日は、原則として、不動産を「引渡した日」となります。
ただし、納税者の選択により、「契約の効力発生日」とすることもできます。
「契約の効力発生日」とは、一般的には、「売買契約締結の日」です。

2-2.取得日の判定

売買により購入した不動産の取得の日は、譲渡の日の判定基準を準用します。
したがって、不動産の「引渡しを受けた日」が、取得日となります。

ただし、納税者の選択により「契約の効力発生日」を取得日とすることもできます。

ここで、契約日に手付金等の支払いの条項があるのに、その代金の支払いが行われていないなど、契約日に売買契約の効力が発生していないと考えられる場合は、契約日が取得日とは認められない場合があるので注意が必要です。
ましてや、架空の売買契約書をバックデートで作成するような行為は、脱税等の犯罪になりますので、絶対に行ってはいけません。

2-3.有利な選択で節税可能?

結論として、譲渡日と取得日について、「引渡しの日」と「契約の効力発生日」のどちらを基準とするかは、納税者の選択により任意に選択することができます。

そこで、取得日を売買契約日とし、譲渡日を引渡した日とすると、所有期間が最も長くなりますが、このような選択による申告は可能なのでしょうか?

こちらは可能です。

取得日を売買契約の日としたので、譲渡日も売買契約の日としなければならないといった縛りはありません。

取得日を「売買契約の日」により、譲渡日を「引渡しの日」によって計算することも認められています。

ただし、1度選択して確定申告をした場合には、その後の修正はできませんので、最初の確定申告の際に、慎重に選択を行う必要があります。

2-4.相続により取得した不動産の取得日(所得税法第60条)

相続や贈与により取得した不動産の取得日は、原則として被相続人や贈与者の取得日を引継ぐことになります。
ただし、非常に稀なケースですが、「限定承認による相続」、「負担付贈与」などにより、その移転の時点で、被相続人や贈与者に対して時価課税が行われている場合には、その時点が取得日となることがあるので、注意が必要です。

まとめ

繰り返しになりますが、「長期譲渡所得」とは、その年1月1日において所有期間が5年を超える譲渡を言います。
短期譲渡所得と長期譲渡所得の一番の違いは税率です。

長期譲渡所得だと税率が20.315%であるのに対して、短期譲渡所得だと税率が39.63%になってしまいます。

せっかく高く売れたのに、短期譲渡所得に該当してしまうと、購入時の仲介手数料や不動産取得税、売却時の仲介手数料や測量費などの各種コストに加えて、39.63%の税金がかかることとなり、当初の見込みよりも手取り額が少なくなってしまいます。

昨今、不動産価額が上昇し、不動産を高く売れるケースが多くなってきています。
ただ、改めて手取り額を計算してみると、思ったよりも得をしていない(手元にお金が残っていない)というケースも多くあります。

譲渡所得の申告は、税理士でも判断に迷うことが多くあります。
難関な事案、特例の適用の判断に迷うことがありましたら、ぜひ当事務所にご相談ください。

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