不動産オーナーの賢い節税術(個人オーナー編)
ここでは、「個人の」不動産オーナーの方の節税について、解説したいと思います。
ただ単に節税と言っても個人の場合は、所得税・相続税の両方を考えないといけません。
またこれは非常に重要なことだと思いますが、不動産投資の本来の目的は「財産の形成」です。
目先のちょっとした節税に目が行き、本来の目的を見失わないように注意する必要があります。
1.青色申告特別控除
不動産オーナー(アパート・賃貸マンンション経営)において、「青色申告」は節税の基本中の基本です。
「5棟10室基準」を満たす方(一般的に事業的規模といいます。)は、複式簿記で会計帳簿を作成し、さらにその確定申告をe-Taxで期限内に電子申告することにより65万円の控除ができます。
「5棟10室基準」を満たさない方(一般的に業務的規模といいます。)でも10万円の控除があります。
ここでいう65万円(又は10万円)の控除とは、税額が65万円安くなるのではなく、税率を乗ずる前の「所得金額」から65万円控除できるということです。
この節税効果によって、複式簿記の帳簿をつけずに自分で確定申告するよりも、税理士報酬を支払ってでも複式簿記の帳簿を付けて申告する方が、トータルで プラスになることもよくありますし、申告書の信頼性が格段にアップします。
また、例えば夫婦で半分ずつの「共有名義」の場合は、夫婦ともに65万円の控除を受けることができます。
本来不動産の共有は、よくないされていますが、親と一人っ子の子供など将来の相続人が確定しているケースでは、あえて共有として2人で各65万円(合計130万円)の控除を受けるのも1つの手です。
2.青色事業専従者給与
青色事業専従者給与とは、5棟10室基準を満たす「事業的規模」の不動産オーナーさんが、その事業を手伝っている「一定の要件」を満たした親族に支払う給与のことです。
不動産オーナーさんにしてみれば、その給与の支払い額分だけ、自分の所得は減少することになります。
所得税の基本的な考え方では、自営業者(不動産オーナーを含む)が、配偶者などの親族に給与を支払っても、その給与は必要経費に出来ないのが原則的な考え方です。
(これができると親族間で所得の分散ができてしますので)
しかし、5棟10室基準を満たす事業的規模の青色申告者の場合で、その人の賃貸業にもっぱら従事している配偶者や親族がいる場合には、次の2つの要件を満たせば、青色事業専従者給与として、必要経費に計上することができます。
業務的規模の不動産オーナーは、この適用を受けることが出来ないので注意が必要です。
<要件>
■その1
「青色事業専従者給与に関する届出書」にその給与の金額や支払い方法を記載し所轄の税務署に提出していること。
提出期限は青色事業専従者給与を必要経費に算入しようとする年の3月15日までです。
(例えば令和3年分から適用を受けたいときは、令和3年3月15日までです。)
■その2
「青色事業専従者給与に関する届出書」に記載された方法や金額の範囲内で、かつ、その親族が、不動産賃貸業に従事した業務内容や時間に照らして、適正な金額であること。
※仮に第3者に依頼した場合の給与や時給を考えて、高額にならないようにその金額を決定する必要があります。
この制度は、その不動産オーナーの不動産賃貸業に「もっぱら従事」している必要があるので、専従者に勤め先がある場合(サラリーマンやOL)やそもそも不動産賃貸業を手伝ってない場合は、この適用を受けらないので注意が必要です。
◇青色事業専従者のよくあるQ&A
Q:妻に青色事業専従者給与を支払うことによるデメリットはありますか?
A:夫の確定申告で、配偶者控除又は配偶者特別控除が受けられなくなります。
Q:子供を青色事業専従者にすることはできますか?
A:その年の12月31日において、15歳以上であれば可能です。
Q:支払いを受けた青色事業専従者給与の取り扱いはどうなりますか?
A:青色事業専従者給与は、支払いを受けた青色事業専従者の給与所得となります。
3.減価償却費の活用
減価償却費とは、賃貸用の建物のように金額が大きい資産を、その耐用年数に応じて毎年少しずつ費用化していく手続きです。
税務上の耐用年数は、木造であれば22年、軽量鉄骨であれば34年、RC(鉄筋コンクリート造)であれば47年など定められています。
また、電気設備や給排水設備などの附属設備は、15年で減価償却費が可能です。
ここで大切なのは、1棟モノを購入した時の「建物」と「土地」の配分です。
(土地は減価償却できません。)
さらには、「建物」と「附属設備」の配分や「エレベーター設備」への配分に注意して、減価償却費の基となる取得価額を決定する必要があります。
また、節税のため耐用年数を短くしすぎると、賃貸経営の後半で減価償却費がとれず、苦しくなることがありますので、バランスが大切です。
4.小規模企業共済に加入する
小規模企業共済は、国が作った個人事業主又は会社役員の退職金制度です。
月額最大7万円の掛金が所得控除の対象となり、全額経費扱いになります。
将来受け取る「共済金」は、次の通りの取り扱いになり、税金上優遇されています。
◇受取った共済金の取り扱い
一括で受取る場合 | 退職所得 | 退職所得の控除あり |
---|---|---|
分割で受取る場合 | 公的年金等の雑所得 | 公的年金等の控除あり |
掛金については全額経費扱い、受取った共済金は税務上の優遇があるため、65歳以上で引退を考えた場合は、必ずと言ってよいほどトータルでは得する仕組みになっています。
一括で受け取る場合は「退職所得」となり、分割で受け取る場合は「公的年金等の雑所得」となります。
両方とも税金上は、優遇されています。
◇小規模企業共済のよくあるQ&A
Q:掛金は、月額いくらから選べますか?
A:月額1,000円~70,000円まで500円単位で選べます。
Q:サラリーマンでも加入出来ますか?
A:一定の個人事業主と法人の役員が対象なので、サラリーマンの不動産投資家は加入できません。
Q:65歳で退職して、共済金をもらい始めた途端に病気などで亡くなってしまった場合は、遺族への保障はありますか?
A:遺されたご遺族が、一括で繰り上げ請求を行うことにより、その分の一時金を受け取ることができます。
5.不動産の法人化を検討する
不動産の法人化とは、個人が所有している賃貸アパートを、ご自身(又は相続人)が出資して設立した法人に売却して、賃貸収入の申告をその法人で行う仕組みです。
今、日本では個人の所得税と住民税を合わせた最高税率は55%と増税傾向にあります。一方で法人税は国際的な観点から減税傾向にあります。
賃貸不動産をお持ちで個人の所得税が高い方は、不動産の法人化は有効です。
◇不動産の法人化のメリット
- ご自身や親族に役員報酬を支払うことによって、所得の分散ができる。
- 家賃収入に低い法人税率が適用できる。
- 生命保険料の活用による節税(個人では上限12万円までの所得控除しかありません。)
- 「社宅家賃」などの経費計上ができる。
一般的には、移転コストの関係で土地は個人所有のままで、建物のみを法人に売却します。
相続税がかかる方は、この場合の土地の相続税評価額が気になると思いますが、税務署に「土地の無償返還に関する届出書」を提出し、地代(年額)を土地の固定資産税(年額)の3倍程度に設定すれば、自用地評価額の80%の相続税評価額(個人の貸家建付地評価とほぼ同じ)となります。
また、一定の要件を満たせば、小規模宅地等の特例の対象にもなります。
このように、不動産の法人化がうまく節税につながる場合もありますが、建物の売買金額、土地の賃貸借契約、地代の設定、必要書類の税務署への提出など気を付けなければならない事項が多いため、この不動産の法人化を検討されている方は、事前に税理士と相談し、共同で進めることをおすすめします。